【CEOブログ】外国人社員に辞められない会社にする

1. 悩み

私は2008年から2012年までの4年間、総合商社(日本企業)の駐在員という形で、中国の北京に住んで仕事をしていました。北京オフィスでは、私のように日本からの駐在員という形で中国に来ている日本人社員と、現地で採用された中国人社員とが一緒に仕事をしていました。その頃、私や上司(日本人)が毎日頭を悩ませていたのは、中国人社員の退職・転職でありました。

中国人社員も優秀であればあるほど、他社からも就職オファーがあり、チームメンバーが入れ替わっていくということが続いていました。もちろん人材とは流動するものでありますし、私自身も転職を複数回経験していますので、「人材は入れ替わる」という現状を受け入れて前に進んでいく必要はあります。とは言っても、やはり同じ人が継続的にプロジェクトに携わることで蓄積されるノウハウや顧客との関係性もあるので、優秀な中国人社員に辞められてしまうと、「チームとしては痛手である」というのが現状でありました。

2. 会社を「辞めない理由」

ところで、我々は働いている会社を「辞めよう」と思うこともあれば、「辞めないで続けよう」と思うこともあります。辞めない場合、「辞めない理由」はどこにあるのでしょうか。もちろん人によって考え方は様々ですが、主には以下に集約できると思います。

【A】給料が良い

【B】仕事の内容が面白い、自分の成長を感じられる

【C】会社に対する愛着、忠誠心がある

そして、この3つの要素の重要度は、日本とそれ以外の国では異なるように思います。

日本の場合
【A】≧【B】≧【C】

日本以外の場合
【A】> >【B】> > > >【C】

上記の通り、日本以外の国では「長い期間働いているので、会社に対して恩義がある」という【C】に該当する感覚は薄いように感じます。そして【A】と【B】の比較で言うと、【A】の要素、即ち給料の方が重要になってきます。一方、日本の場合、「給料はそこまで高くないけど、やり甲斐がある」というモチベーションで仕事に臨むこともあるのではないでしょうか。

私が海外で、外国人社員の退職に悩まされていた最大の理由は【A】であります。上に書いた通りの状況なので、逆に言えば、給料の出し惜しみさえしなければ、外国人社員を引き留めることはできます。当時、私と一緒に働いていた外国人社員は、欧米系の投資銀行などに引き抜かれるケースがありました。欧米系の投資銀行では、実力に応じる形にはなりますが、ある程度多額の給料を支払うことができます。日本企業の場合、堅い「給与体系」というものが存在するが故に、「突然明日から給料を10倍にしてあげる」といった対応は取れません。実力ある者に対して多くを支払いたい気持ちはあるのですが、実態はそれに伴いません。このため、絶えず「給料の吊り上げ競争」(【A】の部分)で負けて優秀な社員の流出を防げない状況が続きました。

3. 給料を上げられないのであれば

外国人社員と接する際、外国人側の重要度が【A】→【B】→【C】の順番であるのなら、会社側の対応も自ずとこれと同じ順番になります。まずできる範囲で【A】をしっかりとさせてあげる。これが難しい場合は、中国に居たときの私がまさにそうですが、セカンドベストとして【B】をしっかりと感じてもらえるように職場環境を整える。そして【C】を外国人に対して求めることは容易ではないのですが、外国人社員でも、「新卒新人社員」に限っては、【C】を感じてもらえる可能性がグッと高くなることを、私は自身の経験から感じています。ある程度年齢を重ねた人であれば「転職を重ねるのが当たり前」という感覚を持ち合わせるようになりますが、新卒新人は最初に接した職場で「しっかりと育ててもらった」と感じられると、そこから「恩義・感謝の気持ち」が芽生えたりすることがあるからです。

繰り返しになりますが、【A】が最重要、そこを会社として対応できないのであれば【B】を頑張る、更には【C】を頑張る方法も考えていく、というのが優秀な外国人社員を引き留める方法になります。

4. 外国人に見た忠誠心

2009年、私が働いていた総合商社の北京オフィスに、中国人の新卒新人6名が就職します。その中で、山西省出身のT君が、私が居たチームに配属となります。仕事を始めてすぐに、私はT君の弱点が「英語」であることに気付きます。これは、商社パーソンとしては致命的です。現在は分かりませんが、当時北京オフィスの始業時間は8時半で、私は毎日7時には出社していました。そこで私はT君に対して、「週に1回の月曜日だけは、7時半に会社に来てください」と指示を出します。そこから私とT君の、週1回1時間マンツーマン早朝英語勉強会が始まります。これは休むことなく(出張などが入った場合は曜日を変えながら)、1年間に亘り継続されます。この勉強会で私は「読む」「書く」「聞く」「話す」と全てに力を入れたのですが、その成果もあってか、1年後には私も安心してT君に英語の仕事を任せられるようになっていました。

別に私はT君に「会社に対する愛着を持ってもらいたい」という目的で、早朝に英語を教え続けた訳ではなく、純粋に「本人の成長」を願っていたものです。但しこれが結果として、T君の会社に対する感謝の気持ちに繋がったことが、10年近く経ち、他社からより良い条件でのオファーもあると想像される中で、今でも同じ会社で本人がリーダーシップを発揮しながら勤めている要因なのかもしれません。日本人以外では比較的珍しい【C】の実例になります。