【CEOブログ】日本人は本当に外国人材に職を奪われるのか? #002

我々は、「日本は人材不足なので外国人の受け入れが必要」という内容や、あるいは「外国人を大量に受け入れると日本人の職が奪われてしまう」という報道を目にすることがあります。これらは、日本の現状を果たして正確に捉えているのでしょうか。

1. 日本の人材不足の構造

私は、単純な需給バランスでまずは物事を見てしまっていたため、最初はなぜ日本が人材不足であるのかを理解できませんでした。日本の人口は2010年代に入りピークアウトしており、現在は減少傾向にあります。人口が減ると確かに働き手も減りますが、人口が減ると同時に消費も減るはずです。例えるならば、人口が減ると教員数が減りますが、人口が減ると学生数が減って「必要となる教員数」も減るので、教員数が減っても困らないはずです。従って、「人口が減っているから人材不足である」とは言えません。また人口が減っているから人材不足だとすると、外国人を大量に受け入れることで国内の消費が増え、それを満たすための供給も増やす必要があることから、寧ろ人材不足に拍車が掛かるばかりです。

日本の場合、やはり「高齢化」に原因がありそうです。日本の人口は、先ほども触れている通り、2010年代に入ってからピークアウトしています。一方で日本の「労働力人口」は、それよりも10年近く早く2000年代からピークアウトしています。全体人口が減少するスピードよりも、労働力人口が減少するスピードの方が速いことで、日本の人材不足が起きていると言えるでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/english/wp/wp-hw3/dl/j1_05.pdf (厚生労働省発表の「労働力人口推移」)

加えて、日本経済が少しずつ調子を取り戻していることも、日本の人材不足に関係しています。一時は落ち込んでいた貿易収支も、2016年度からは黒字に戻しています。これは日本が海外消費をしっかり取り込めているということです。先ほどの教員のたとえを使うと、日本の教員が海外の学生にも教えているような状態ですので、日本の学生が減ったところで「必要となる教員数」は減りません。その中で日本の教員数が減ってしまうと、人材が不足してしまいます。つまり「(日本の)人口が減ると人材不足になる」という状況が生まれるのです。

2. 考えるべきは「自動化」「AI化」

上で述べてきた通り、日本が海外消費を取り込めているということもありますが、それ以上に「高齢化」に端を発する形での人材不足が日本では大きいことが分かります。

そういう中で、日本で外国人材を大量に受け入れると、時々報道などで言われているように日本人の職は奪われてしまうのでしょうか。私は、マクロでは日本人の職が奪われることはないと思いますが、ミクロではそのような状況も発生し得ると考えます。

<マクロの観点>
「人材が不足している」国である日本で、外国人材を受け入れるのですから、「人材を受け入れたことで職を失う人が出てしまう」ということは絶対に起こりません。もちろん日本の人口の10分の1ぐらいの数の外国人を受け入れればそのようなことも起きるかもしれませんが、そのような狙いは今のところ日本政府にはありません。「外国人受け入れに起因した日本人の職の喪失」はマクロでは発生しません。

<ミクロの観点>
ただしミクロでは影響はあります。日本は全体としては人材不足ですが、全ての業種が同じように人材不足なのではありません。人材不足ではない業種、多少人材が不足している業種、大きく人材が不足している業種と、様々です。また外国から日本に来る人材にも職種の偏りがあります。外国人材は、日本にある全ての業種に満遍なく就く訳ではありません。このような状況では、特に人材が不足している業種に外国人材が就く場合は需給が上手くバランスしますが、業種によっては日本人との間で多少の競争を生み出すケースもあると思います。

<それでも日本人の職が奪われている訳ではない>
ただ、そのような一部の業種に関しても本当に「外国人受け入れで日本人の職が奪われている」と言えるのでしょうか。私は、そのように言い切ることは難しいと感じています。その理由は、「自動化」や「AI化」にあります。これからの時代、多くの仕事は「自動化」「AI化」が進むことによって人間の手から益々離れていきます。これは、「外国人が職を奪うかもしれない」ということよりも大きな社会的インパクトのある事象であります。単純労働の場合は、そもそも「自動化」「AI化」で人間の手から離れていってしまう可能性が高いので、そのときに「外国人」に焦点を当てる形で議論をしてしまうと、問題の本質を見誤ってしまうかもしれません。