【CEOブログ】グローバル人材としての教養:2021年に考える気候変動問題
1.環境ビジネスの第一次ピーク
気候変動問題、地球温暖化の問題は、何かしら重要となる特定のタイミングが存在するものではなく、社会としての「継続的な」取り組みが求められる課題である。但しその中にあっても、私が「環境ビジネスの第一次ピーク」と呼んでいる時期がある(私が勝手にそのように呼んでいるだけであって、内容については賛否両論あることも理解する)。
その時期とは2000年代後半〜2010年代初頭であり、この頃、環境ビジネスを取り巻く状況は熱を帯びていた。象徴的なものを幾つか述べると、2007年にはアル・ゴア元米国副大統領が環境啓蒙活動を評価されIPCC(気候変動に関する政府間パネル共)と共にノーベル賞を受賞した。2009年米国大統領に就任したオバマ大統領(当時)は、環境対応を前面に打ち出したグリーン・ニューディール政策を掲げた。また日本でも、京都議定書に基づく第一約束期間であった2008年〜2012年にかけては、経団連のセクター別目標を受ける形で、大企業が積極的にCO2排出削減に取り組んでいった。それ以外にも、植林を含む様々な環境活動に着手していき、企業は自社の「CSRレポートの内容を充実させること」がひとつの目的になっていたようにさえ見受けられる。
ただ、先進国が中心となって積極的に環境ビジネスに取り組んだ2010年代初頭までと比べると、2010年代の半ばは、その勢いが落ちていったと言える。ではなぜECOブームは過ぎ去ったのか?
2.なぜピークは過ぎたのか?
気候変動問題は、中長期での取り組み課題である。例えば、今日環境を汚したからといって、明日困る訳ではない。逆に、今日CO2排出を削減したからといって明日温暖化が落ち着く訳でもない。地球上で生活する生命体を脅かす大きな問題であるが、じっくりと腰を据えて対応し続けることでしか解決に導くことはできない。
その中で起きたのが、2008年のリーマン・ショック、そしてそれに伴い時間をかけて世界中を襲った景気後退。また日本では、2011年の3.11、それに伴う電力不足と人々の精神的な疲弊。これらの出来事により、目先の生活が困窮し、我々は中長期で考えるべき事項を後回しにしてしまった。例えば、3.11で原発が止まり、その分火力発電の稼働率を高めるために世界中から石炭、石油、LNG(液化天然ガス)をかき集めないといけないときに、「石炭は環境に優しくないから買うのはやめておこう」とはならない。急ぎ電気を供給し、人々の生活を持続させることが(そのときは)大切であった。
同様にリーマン・ショック以降の2009年、2010年頃、世界中で「環境問題より目先の生活を優先する」判断に迫られる人々が増えていった。このことで社会は、「気候変動問題は重要な課題ではあるが、目先で急を要する別の問題が発生するとき、(気候変動問題への)取り組み優先度は下がる」ことを証明してしまった。そして、地球全体の問題である気候変動問題は全員が一丸となって取り組むことでしか解決できないため、「いざとなったら環境問題に取り組む優先度を下げざるを得ない」人たちの存在は、全体のモチベーションを低下させることへと繋がっていった。
このように、気候変動問題と真剣に向き合う必要性を我々は理解しながらも、2010年代半ばには積極的な姿勢を失ってしまっていた。
3.「パリ協定」以降
その後の転換点を挙げるとすると、2015年のパリ協定であろう。フランス・マクロン大統領の強硬策も奏功し(?)、このときに協定を起草し、翌年(2016年)には発行している。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ(通称『2℃目標』)ことに向け、世界がまたひとつになり動き出すための土台ができた。
※パリ協定とは?(国連による解説)
https://youtu.be/WiGD0OgK2ug
そして現在、EU、アメリカ、日本をはじめとする多くの国が「2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)実現」を目標として掲げている。中国も「2060年までのカーボンニュートラル実現」を発表しており、向いている方向は他の国々と同じである。
セクター別で見てみると、EUは2035年にハイブリッド車を含むガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する見込み。民間レベルでは、トヨタ自動車が2030年までに国内新車販売の95%を電気自動車やハイブリット車にする目標を掲げている。パリ協定以降の世界を取り巻く大きな流れを見ていると、今がまさに「環境ビジネスの第二次ピーク」と感じざるを得ない。
4.グローバル人材としてのスタンス
気候変動問題は、我々人類が現在直面する最も重要な問題のひとつと私は思っている。またビジネス面から解決へと導きたい考えが主流であることを踏まえると、今自分がどのような業界でどのような仕事をしていたとしても、環境問題に対する「自分なりのスタンス」を持っておくことが肝要ではないか。
化石燃料の在り方をどう見ているのか?再生可能エネルギーの在り方をどう見ているのか?原発の是非(これは単純な賛成・反対の議論というよりは、社会の全体最適と未来とリスクを考える中で原発をどのように位置付けることができるのか)をどう捉えるか?問題意識を持ち続け、情報や考え方のアップデートを怠ることなく、これらのテーマと付き合っていかないと、世界の人々との議論についていけなくなってしまう。
気候変動問題は個人の問題に留まらず、地球全体の問題でもある。コロナ一色であった2020年を経て、2021年、様々な場面で経済活動はコロナ以前に戻り始めている。「環境ビジネスの第ニ次ピーク」は益々勢いを増すことであろう。「自分は気候変動問題をどう捉えているのか?」と今一度頭の整理をするには絶好のタイミングである。
#気候変動問題 #パリ協定 #カーボンニュートラル