【CEOブログ】(今さら聞けない)なぜ原油価格の下落がこんなに騒がれているのか?!
2020年4月現在、「コロナの影響で原油価格が史上初のマイナス」などと連日原油のニュースをよく目にします。今日は「なぜ原油価格の下落がこんなに騒がれているのか?!」について書いていきたいと思います。
1. はじめに
今回扱う「エネルギー」や「コモディティー」の世界は非常に複雑であり、奥が深いです。これを正確に説明しようとしたら、本何冊分もの分量が必要になりますし、その手の本は既にたくさんあります。なので、私の稚拙な文章を読むよりは、そういった本を買った方が良いでしょう。この投稿の最後では本の紹介もしたいと思います。
ここでは原油の「げ」の字も知らない人たちを対象に、今騒がれていることを「なんとなく分かったような気になってもらう」ことを目的に文章を書いています。コモディティーのトレーディングに従事している人たちからすると、「内容が浅い」とか「ポイントがずれている」などと思うこともあるかもしれませんが、趣旨である「ざっくり理解する」に鑑み、ご容赦いただけると幸いです。
2. そもそもWTI原油とは何か?
「石油は地中を掘って出てくるもの」という認識は皆さんあるかと思いますが、掘って実際に出てくるものを「原油」と呼びます。この「原油」に、「精製」と呼ばれる処理をしてあげることで、軽油とか、重油とか、ガソリンとか、燃料油とか、様々な「石油製品」が作られます。「石油」という言葉の定義はかなり幅が広く、「原油」や「石油製品」が全て含まれます。ひとまず、地中を掘って最初に出てくる石油は「原油」と理解しておきましょう。
原油は世界の様々な場所に埋まっているのですが、採掘される場所によってその性質が異なります。従って、原油を扱う人たちにとって「どこで採掘された原油なのか」は重要になってきます。バナナの生産地みたいなものでしょうか(ちょっと違う?)。バナナという同じ果物だけど、生産地によって味が違うみたいな。
そして色々ある原油のうちのひとつが「WTI(West Texas Intermediate)原油」です。これは厳密には複数の油田から採掘される原油の総称なのですが、ここでは「アメリカのテキサスら辺で採れる原油」と思っておけば大丈夫です。WTI原油はその取扱量が著しく多い訳ではないのですが、「WTI原油先物価格」は世界中の原油価格に影響を与える指標と位置付けられています。だから「WTI原油価格」は重要なのです。ちなみにイギリスで採れる「ブレント原油」や中東の「ドバイ原油」などもその価格が参照されること多いですが、指標としてはやはり「WTI原油」が最強です。
3. 石油がないと移動ができない
ただ、「別に原油価格とか気にしながら日々生活していないんですけど」という方もいらっしゃると思います。経済の専門家の方々は色々詳しく言いたいことあるかもしれませんが、勝手に簡単にまとめてしまうと、我々が原油価格を気にしないといけないのには「燃料(車両用)」と「電力」の2つの観点があります。
原付、バイク、自動車、飛行機、船舶と、我々の生活に直接的・間接的に関わりのある移動・輸送手段の多くはガソリンや燃料油など「石油製品」を燃料としています。自家発電しながら電気で動く車両もありますから、全てが石油と繋がっている訳ではありませんが、それでも移動手段のかなり多くが石油に依存しています。余談ですが、「新型コロナウィルスの影響で原油価格が下がり、それを受けてガソリン価格も下がっているので、ロシアでは中古車自動車販売の台数が延びている地域もある」とのニュースを先日目にしました。とにかく、「石油がないと移動ができない」ことだけはしっかり覚えておきましょう。これが原油価格に関わる1つ目の観点です。
4. 電気がないとネットができない
次に2つ目の観点、原油価格が「電力」に及ぼす影響を見ていきます。火力発電所で使われる主要な発電燃料を見てあげると、1-石炭、2-石油、3-LNG(液化天然ガス)、この順番で価格が安いです。一方で、1-LNG、2-石油、3-石炭、この順番で環境に優しいです。つまり発電事業者は、常に「価格は安いけど環境に悪い燃料」と「価格は高いけど環境に優しい燃料」の間で、環境負荷コストも考えながら、最適バランスを考えます。
専門的すぎる話はここではしませんが、LNGの価格フォーミュラは原油価格に連動している部分があります。「LNG価格は、直接、原油価格に連動する」とざっくりと認識しておいてください。そして「石炭は環境に悪いから本当は使いたくないけど、価格が安いから使っている」発電事業者がいたとして、その時に石油やLNG価格が大幅に下落したりすると、石炭価格の価格優位性も変わってきますよね。このように、石油価格は間接的には発電用石炭の価格にも影響を及ぼします。
更に原油価格の変動と共に必ず語られるのがシェールガスです。シェールガスは天然ガスの種類のひとつぐらいに思っておけば良いのですが、技術的な理由によりシェールガスは採掘するのに非常にコストが掛かるのです。だから市況に関わらず、シェールガスは常にそこそこ価格が高いです。シェールガス採掘の観点からすると、石油の価格が高いときは「どうせ他のエネルギー資源の価格も高いから、シェールガスを生産するのも悪くない」となります。一方、石油の価格が安いときは「他のエネルギー資源が安く取引されている中で、わざわざ価格が高いシェールガスを生産する必要ありますか?」となります。原油価格はシェールガスの生産に多大な影響を与えるのです。
石油、LNG(液化天然ガス)、石炭、更にはシェールガスの価格が動いて火力発電を取り巻く状況が変化すると、発電事業者たちは水力発電や原子力発電も含めた電源構成全体の中での対応を考えなければなりません。このように原油価格は、我々の生活に大きな影響を与える「電力」自体の動向をも決定付けるのです。電力(電気)は本当に重要です。電力のない生活を想像できますか?まず家中の電気が点きません。電子機器は何も充電できないのでスマホ、PCも使えません。仮にスマホに充電が少し残っていたとしてもネットに繋がりません。
5. 原油価格はどうやって決まるのか?
原油価格の決まり方ですが、これは「株価はどう決まるのか?」と同じで様々な要素が複雑に絡み合っていて、一言で語れるものではありません。あまり話を単純化すると世界中の石油トレーダーたちに怒られそうですが、ここでは敢えてポイントを3つに絞ります。
1つ目は「需給」です。これは分かりやすいですね。モノの価格は需給のバランスで決まります。ただひとつ注意が必要なのは、原油の「供給」は恣意的である点です。原油価格を吊り上げるために原油生産国が生産をわざと落とすことがありますし、その逆の動きもあります。原油生産国のさじ加減に影響は受けます。
2つ目は「投機マネー」です。多くのコモディティー商品同様に、石油にも大量の投機マネーが流れ込んでいます。つまり本当に石油そのものを必要としている訳ではない、投機目的での売買も多く見られます。そうすると「世の中で石油を必要としている人が増えた」「中東での原油生産が落ち込んでいる」といった実際の需給の動きとは別に、投資家たちの動き方で価格が左右される部分があります。
3つ目は「地政学リスク」です。これは結果として「需給」や「投機マネー」に繋がる話ですが、アメリカ、中東、ロシアといった原油そのものが埋蔵されている地理的な場所に関連して、政治的な影響を受けます。例えば中東情勢が不安定になれば、中東から石油を購入している人たちは不安になって、石油の価格が上がるかもしれません。株価や為替と同じと考えれば当たり前のことかもしれませんが、政治はモロに原油価格に影響を及ぼします。
6. Gozioki
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。かなりざっくりした内容ですが、「株価」「為替」「金利」と同様に、「原油価格」も世界の様々な動きを知る上で重要な指標のひとつなので、その数字を追い掛けてあげて、価格変動の要因を考えてみるのは良いことと思います。
「エネルギー」「発電」「コモディティー」「世界経済」と切り口を変えていくらでも掘り下げられるテーマなので、関連する書物も無数にありますが、せっかくなのでここでは『探究:エネルギーの世紀』を紹介します。こちらは石油、そしてエネルギーの世界に対する理解を深めることができる良書と思います。
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/16953
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/16954