【CEOブログ】グローバル人材なら知っておきたいこと #020

世界の動きに目を向けて見ると、この10年間で一気に2つの方向に向かい始めたことが分かる。1つは『監視型社会』、もう1つは『反グローバリゼーション』。ここではこの2つについて詳しく見ていきたい。

1. 監視型社会

世界が『監視型社会』に向かっていくことは、昔から分かっていたことである。昔からの予想通り、現代社会は『監視型社会』の道を突き進んでおり、未来の世界に於いてこの傾向は益々強くなる。このような未来を見据え、フランスの有名な経済学者であるジャック・アタリは著書「21世紀の歴史」の中で『超監視型社会』という言葉を使っていたりする。

世の中はなぜ『監視型社会』に向かっていくのであろうか。これには構造的な要因がある。我々の住む世界では、日々「技術革新」が起きている。これにより我々の生活はどんどん便利になっていく訳であるが、技術革新によってもたらされるもののひとつに「情報の非対称性の解消」がある。

アメリカに住んでいる人は知っているが、ブラジルに住んでいる人は知らない。お金持ちの人は知っているが、お金持ちではない人は知らない。このような「情報の非対称性」は、インターネットをはじめとした今日の技術革新により次々と解消されていっている。「情報の非対称性」がこの世の中から完全になくなることはないが、技術革新を通じて、相対的には減っていく傾向にある。

我々は徐々に「いつ・どこで・何を」していたのかを隠せなくなってきているのである。クレジットカードの記録をトレースする、携帯電話をGPSでトレースする、街中にある監視カメラと高度な顔認証機能を組み合わせる、あらゆる方法で我々は日々追いかけられている。人間は不思議なもので、他人の行動が見えないうちは気にならないことでも、行動が見えてしまった以上は「変なことをしていないか?」と監視したくなるものである。

このように「情報の非対称性が解消」されたとき、人々はお互いを「監視」するモードに突入していくのである。誰しも一度は、SNSに投稿する際「炎上してしまわないか?」と気を遣った経験があるのではないだろうか。そう、我々は監視されているから。

2. 反グローバリゼーション

「グローバリゼーション」の名の下に、20世紀以降、「人・モノ・情報」は国境の壁を越え、世界各国・各地域は繋がりを強めていった。世界中で「人・モノ・情報」の行き来が自由になったことは、世界経済に「効率化」と「規模の拡大」をもたらし、経済成長に大きく寄与することとなった。

自国で製造するのではなく他国で製造することでコスト削減を図る(効率化)、自国だけで販売するのではなく他国でも販売することで売上増に繋げる(規模の拡大)。もちろん自国だけでビジネスを展開するのではなく、世界を舞台に動くことはそれだけ「競争」が増すことも意味している。ただそれは「資本主義に於ける正当な競争」として歓迎されるものであった。

このように世界が繋がっていくことには、経済面での大きなメリットがあるが、一方で政治的な理由によるリスクの存在も無視できない。他国に経済的に依存している際に、その国との関係性が悪化してしまえば、「他国と取り引きをしている」こと自体がリスクとなる。

これら状況の中で、2010年代に突入すると「先進国が他国から資本を引き上げる」動きも目立つようになる。世界は「繋がる」のではなく、「分断」「孤立」を始めたのである。またこの背景には、これまで「先進国」と呼ばれていた国々でも格差が拡がり始め、ナショナリズムを推す勢力が強くなっていったことも大きく影響している。

「世界が人・モノ・情報を介してひとつに繋がる」グローバリゼーションから、「自国利益を優先的に安定させるため各国・各地域が孤立する」反グローバリゼーションへと、確実に時代は変わっていっている。

3. 二つの大きな違いと今後

2020年現在、世界は『監視型社会』『反グローバリゼーション』この2つの大きな潮流の中にあるが、両者には決定的な違いがある。

『監視型社会』は、人類の技術革新の上に成り立っている避けられない流れである。この先、ジャック・アタリが予測するような未来が待ち受けているとして、人々による「監視」は強まることはあったとしても、弱まることは考えられない。この傾向はどこまでも続くのである。

他方、『反グローバリゼーション』は文字通り「グローバリゼーション」に対する反動であり、これは振り子のような動きをする。『反グローバリゼーション』が過剰に進んでしまったと考えられたとき、突如として逆の動きに転じる可能性もある。つまり傾向として永続するものではなく、長い時間軸で捉えると、取り巻く世界環境の中で行ったり来たりするものなのである。

現在、新型コロナウィルスが世界の人々、世界の経済に大きく影響を与えている。各国の渡航制限は国毎の「孤立化」を押し進めることになり、また周りの誰が感染しているのかが分からないという不安は人々の「監視」を益々強めることになる。

2020年は、世界の『監視型社会』『反グローバリゼーション』へ向けた動きに拍車がかかることになる。しかしながら、我々が住む現代社会は非常に複雑に絡み合っていて、簡単に各国が「孤立」できるものでもない。自分たちの国にできること、他国と協調することでできること、それらを意識しつつ、落ち込んでいる世界経済の少しでも早い回復を願うばかりである。