【CEOブログ】「格差拡大の時代」と向き合う

The Economistの記事“How the world’s poor stopped catching up”(2024年9月19日)では、「格差拡大の時代」と「格差縮小の時代」を経て、再び「格差拡大の時代」に突入している世界の情勢について述べられている。

<記事リンク> https://www.economist.com/leaders/2024/09/19/how-the-worlds-poor-stopped-catching-up


※記事では上の表にある3つの時代について触れられているが、各時代の期間の設定や呼称は、The Economistの独自の見解によるものである。

[A] 先進国優位の成長時代

産業革命以降、我々は石油を使いこなせるようになり、自動車は普及し、生活が大幅に豊かになった。人間社会は大きく進歩したが、この頃、全ての国が一律に成長した訳ではない。アメリカ、西ヨーロッパ、そしてそこに遅れて日本などの国々が経済成長を遂げ、「先進国」としての地位を確立した。その一方で、この間の成長が限定的であった国々が「発展途上国」と呼ばれるようになっていった。

このように、産業革命以降の世界の経済成長は「先進国」に限定した動きであることから、先進国と発展途上国の「格差が拡大した時代」とも言える。

[B] グローバル収斂(しゅうれん)の奇跡時代

1980年代以降、「先進国は発展途上国に対して支援の手を差し伸べるべきである」とする風潮が強くなっていった。IMF(国際通貨基金)やWorld Bank(世界銀行)などの動きに留まらず、様々な国・企業・機関が、先進国から発展途上国に向けた資金と技術の移転の仕組みを考え始めた。ODA(政府開発援助)はその代表格として分かりやすいが、1997年に採択された京都議定書に基づく排出権取引も、気候変動問題への対応であることに加え、「資金と技術の移転」がその根幹を担っている。

これらの先進国の援助に加え、鄧小平による市場開放の末にようやくグローバル経済の枠組みの上に乗り始めた中国、冷戦の終焉を経て自由な市場への参加の切符を手にした東ヨーロッパなど、各国が成長を遂げ、経済格差は縮まりを見せていく。中でも中国はこの間に、日本のGDPを追い抜き、世界第二位の経済大国にまで上り詰めていく。またASEANを中心とする東南アジア地域の経済発展も際立っていた。

グローバリゼーションの恩恵を多くの国々が享受する結果となったが、その一方で、アフリカの一部の国など、思うような経済成長を遂げることのできなかった地域も多数存在している。

[C] 停滞と格差拡大の時代

ところが「格差縮小の時代」も、2010年代になるとその雲行きが怪しくなり、The Economistが定義するところによれば、2015年に終わりを迎えている。

「第二の中国」や「第二のASEAN」を狙った国々は思うように経済を伸ばすことができなかった。ナショナリズムに回帰する動きも強まり、各国間で繋がることに価値があるとする「グローバリゼーション」の真逆である、自国重視の政策を掲げる「反グローバリゼーション」が各国を席巻していく。

米中貿易戦争、圧力の強まる気候変動問題への対応、さらには難民問題などにより複雑化する社会の構造。従来のように「先進国の成長」或いは「先進国から発展途上国に向けた還元」のような単純な形で、社会が前に進んでいくことは難しくなってきた。

その結果、再び「格差拡大の時代」を迎えているのが、我々の現在地である。

次の時代に向けて

The Economistが語る3つの時代を通じて学べることは2つある。

• 自由経済は世界に繁栄をもたらす
• 我々は環境の変化に負けて、自由経済を持続せることに挫折してしまう

自由経済の大切さを誰よりも理解しているアメリカでさえも、最近では、中国を警戒する中で介入主義へと傾倒している。

世界経済に重要な影響を与える選挙が相次ぐことから「選挙year」と言われる2024年。インドのモディ首相は3期目を迎え、日本も新たな首相を迎えることになり、そして11月にはアメリカ大統領選挙によって次の政権が決まる。

グローバリゼーション、ナショナリズム、多様性、AI、核問題、カーボンニュートラルと、無数のキーワードが取り巻く中で、世界の動きをしっかりと観察しながら、我々としては社会的価値の高い仕事を積み重ねていきたいものである。