【CEOブログ】今月は世界中で色んなことが起きている #046


(AP Photo/Jacquelyn Martin)

1.日本時間2023年3月24日の話

朝、仕事に向かいながらスマホでソーシャルメディアを見ていたら、アメリカ議会の公聴会に呼ばれていたTikTokのCEOであるShou Zi Chew氏による約6分間の冒頭陳述が目に飛び込んできた(※公聴会は現地時間23日に開催されている)。吸い込まれるようにその映像に見入ってしまった私は、企業の置かれた状況に関するトップの説明として素晴らしいと思い、自分のTwitterにも「素晴らしい説明」と投稿している。この時、日本はまだ3月24日の午前7時前である。

この公聴会は5時間以上に及んだようであるが、私がその日の午前中にスマホを見ていると、今度は公聴会の様々な場面の切り抜き動画が目に飛び込んでくるようになった。それぞれの切り抜き動画は、Shou CEOに対して質問をしている議員は異なれど、どの議員も威圧的な態度で(質問をしているというよりは)一方的に批判的な言葉を浴びせている点で共通していた。またどの切り抜き動画も、回答しているShou CEOの対応が紳士的で、発言も論理的である点で共通していた。Shou CEOはアメリカ国籍ではないのだが(シンガポール人)、アメリカの議会で、アメリカの議員を相手に、圧力をかけられながらも毅然とした態度で臨んでいる姿を見て、私は少なからず感動を覚えた。日本時間の24日午前9時半頃、私は自分のTwitterに「こういうのがグローバルなリーダーシップと思います」と投稿している。

その日は私自身も慌ただしく一日を過ごし、再びゆっくりとスマホを見ることができたのは夕方であった。そうすると、今度はそれまでとはまた違う内容の動画でソーシャルメディア上は溢れ返っていた。それはインフルエンサーや一般人を含むありとあらゆる「アメリカ市民」が、公聴会でShou CEOと向き合っていた「議員」たちを批判する内容の投稿であった。私のTikTokのタイムラインは、一時全てがこの手の批判動画で埋め尽くされた。

・議員たちはソーシャルメディアのことが分かっていない
・議員たちの態度は傲慢であった
・この人たちに自分の国の政治が任されていることが信じられない

どの投稿動画も共通して、上に書いたようなメッセージを発信していた。同じような動画で自分のタイムラインが完全に埋め尽くされている状況に驚きを隠すことができなかった私は、午後5時過ぎ、自分のTwitterに「ソーシャルメディアを見ている限り、TikTok CEOの公聴会に対するアメリカ国民の反応が全般的にすごいですね。結局政治家ではなく、国民が一番まともなのですね」と投稿している。

2.「モメンタムは止められない」のか?

米中関係が微妙な状況にある中で、TikTokは以前からアメリカ当局に目を付けられていた。「中国政府がTikTokを通じて市民の情報を抜き出している」とするものである。また今回のアメリカ議会での公聴会に関しては、ロビー活動に多額の資金を投じるMeta社(旧社名:Facebook社)によるTikTok排除に向けた動きが裏で作用しているとの噂もある。

「モメンタム(感情的な勢い)は止められない」という言葉があるが、今のアメリカ政府は中国に対する警戒を強めていて、その中でTikTokはうってつけの攻撃ターゲットである。こうなると、アメリカ国内でTikTokアプリがbanされる(禁止される)のは避けられないのかもしれない。ただTikTokは人々がクリエイティブに多くのことを発信するためのプラットフォームであり、そのプラットフォームの使用を禁止すれば、「アメリカ政府が国民の表現の自由を剥奪した」と捉えることもできる。アメリカはこれまで散々専制政治の国家たちを「国民の自由を奪っている」と批判してきたが、批判してきた相手である国家たちと同じ方向に自ら進んでいくことになってしまう。

今回のTikTok CEOの公聴会では、先に述べた通り、Shou CEOの説明は素晴らしかったし、一方で議員たちの質問内容については違和感を覚えることが多かった(ただMark Zuckerbergが2018年に公聴会に呼ばれた際も、議員たちの対応は同じようなものであった。その意味ではデジャヴ感もある)が、何よりも衝撃的だったのはアメリカ国民のこの出来事に対する反応の大きさである。「実際にアメリカでTikTokがbanされてしまったら、国民はどういう行動に出るのだろうか」と思わざるを得ない。正直私には予想がつかないが、今の時点でここまでのリアクションとなっているので、何かしらアメリカ社会に大きなインパクトを与えるような動きが生まれることは間違いないように思う(もしTikTokがbanされればの話である)。

アメリカでのTikTok使用禁止はまだ決定された訳ではないので、引き続き状況を注視したい。

3.信じられない1カ月間

それにしても「2023年3月」は本当に信じられない1カ月間である。

【マクロ経済における転換点】まずは3月10日のSilicon Valley Bank破綻から始まっている。インフレ下に於ける利上げに対する結果のひとつであるが、これは世界経済の中でこの先の金利・為替の流れを変える転換点となる可能性のある出来事である(※ただ3月22日時点では、アメリカFRBは利上げの継続を発表)。

【世界のパワーバランスにおける転換点】非公式会談ながら3月20日には、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が対面している。ウクライナ侵攻以降、欧米諸国を中心に経済制裁を課せられているロシアであるが、ロシアに対して「経済制裁を課していないまたは積極的には課していない国」は100カ国以上ある。世界の中では「ロシアだけが悪者」とは捉えていない国々もあるのである。そして近年、世界政治の場での影響力が明らかに落ちているアメリカ。その中での中露トップ会談。今後の世界のパワーバランスはどうなっていくのか。

【民主主義の在り方における転換点】そして今回のTikTok公聴会(3月23日)である。ここまで強くアメリカ国民が反応を示している中、アメリカ政府はどのような選択をすれば良いのか。もしアメリカが国民の「表現の自由」を剥奪してしまったら、民主主義は永遠に変わってしまうのか。

もちろん、暗いニュースばかりではない。今月は野球の世界大会WBCで『侍ジャパン(日本代表)』が劇的な優勝を決め、日本国民にとっては感動的な瞬間となった。

色々なことが起きている2023年3月であるが、ここまで世界に動きがあるということが、我々が「脅威としてのコロナ」を乗り切ったことを証明しているのかもしれない。もちろんコロナ自体が消える訳ではないので油断は禁物であるが、我々は自信を持って次々と一歩を踏み出していかないと、もう動き出している世界にどんどんと置いていっていかれてしまうのかもしれない。