【CEOブログ】Qコマースは全盛なのか(インド編)
「朝注文した商品が午後に届くAmazonでは遅い」と感じたインドのミレニアル世代やGenZが(インドの人件費のおかげもあって)育てたとも言えるQuickコマース。今では10-15分でのデリバリーを実現(ムンバイやデリーでは10分以下)。
1.人海戦術×最新テクノロジー
オンラインで買い物をする人は多いと思うが、商品が注文から10分で自宅に届くとしたら、どんなにラクか。それを実現してくれるのが、特にインドなどで盛んなQコマースである。
ではなぜそのようなことが可能なのか。「人海戦術」と「最新テクノロジー」、この両方が上手く機能している実態がある。
配送センター(Qコマース大手blinkitの場合「Dark Stores」と呼ばれる)をとにかくたくさん建てていく。各配送センターがカバーするエリアは3-4kmの範囲であり、バイクで商品を届けるため、10-15分で届く仕組みとなっている。
配送センターをこれだけ作るということは、拠点毎に置いておく商品数はある程度絞られることになる。注文される頻度の高い商品に特化しつつ、日常生活で必要とされる大半の商品は揃えているため、利用者にとっては十分な選択肢があると感じられる。
またオペレーションの効率化を支えるのは、配送センターの数や配置だけではない。需要予測や在庫管理を最適化するアルゴリズムが、注文の多い商品を効率よく揃える仕組みを支えている。配送員にはスマートフォンを通じて最適ルートが指示され、短時間での配達が可能となっている。
2.食材や生活必需品が中心
“朝ごはんを食べようと思ったら、牛乳を切らしていることに気づいた”
“今から急遽友人が数名自宅に来ることになったので、飲み物を用意しておきたい”
このようなニーズにしっかり応えてくれるのがQコマースである。
食材や生活必需品はもちろんのこと、アイスクリーム、花束、筆記具なども買うことができる。
また人間は「慣れ」の生き物なので、一度Qコマースに慣れてしまうと、オンラインで買い物をする際に、10-15分以上は待てない体になってしまう人もいる。
3.日本で成り立つのか
インドでは若者の間で急速にQコマースが広がっている。逆に言えば、Qコマース上に商品を載せておかないと、リーチできない消費者層が存在し始めていることになる。
そんなQコマースは、日本でも今後普及するのか。
日本とインドでは、生活習慣や、生活環境が異なるので、インドと全く同じことが日本で起きるとは考えにくい。特に「人件費」は大きな要素となる。インドと同じスタイルで日本でQコマースを実践した場合、商品代金がかなり高騰してしまう。
それでも、「ある程度高額な商品に対象を絞る」「10-15分は難しいにせよ、1時間ぐらいでの配達は実現可能」といった具合に、Qコマースのコンセプトをベースに、柔軟に発想を広げていくことはできる。
実際に「Qコマース」という言葉で検索をしてみると、日本での取り組み事例も確認することができる。
4.リバース・イノベーション
Qコマースが普及した背景には、単に安価な労働力だけでなく、テクノロジーを駆使した効率的な仕組みづくりがある。この成功は、インド独自の課題に適応し、そこで生まれた革新が他国にも波及する可能性を示している。
こうした事例を見ると、ダートマス大学タック経営大学院のVijay Govindarajan教授が提唱する「リバース・イノベーション」が頭に浮かぶ(※リバース・イノベーションは、新興国で生まれた革新が先進国にも展開され、さらなる価値を生むこと)。
グローバル社会の中にあって、政治的にも経済的にも重要な立場を担うようになってきているインドであるが、イノベーションの観点でも目が離せない。
『インドを見ずしてグローバルは語れない』とはよく言ったもので、今後もインドはしっかりとウォッチしていきたいと改めて思った次第である。