【インド新規事業立ち上げ物語】(第26話)インドのCSR概念を変えた日本人


※CEOブログの一環としてGozioki代表の吉田が執筆しています。(写真はインド・ムンバイ郊外にて)
※本投稿に出てくる日本円換算は「1ルピー=1.8円(2023年10月15日現在)」が前提

1.Mandatory CSR

インド企業は2014年以降、法律に基づき、以下の3つの内どれか1つでも満たした場合、直近3会計年度の純利益の2%以上を「CSR(企業の社会的責任)拠出」に充てなければならない。

  • ● 純資産が 50 億ルピー(約90億円)以上の会社
  • ● 総売上が 100 億ルピー(約180億円)以上の会社
  • ● 純利益が 5,000 万ルピー(約9,000万円)以上の会社

「2%ルール」や「Mandatory CSR(義務的CSR)」と呼ばれるものである。

<出典> TMI総合法律事務所ホームページ
https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2021/12427.html

2.CSRのインパクト

この制度が導入されてからもう間もなく10年が経つが、非常に効果的な仕組みとなっている。

  • ● CSRと向き合う意識の向上
  • ● CSRが具体的に指し示す範囲の明確化
  • ● 企業からのCSR拠出を前提とした、CSRプロジェクトの寄付金受入体制の確立

これらを踏まえ、インド全体でのCSR取り組みは着実に浸透、拡大している。企業によるCSR拠出は2014-15年度(インドも日本と同じく4-3月決算)にインド全体で1,007億ルピー(約1,800億円)となり、そこから2019-2020年度には2,122億ルピー(約3,800億円)と2倍以上に伸びている。

<出典> 2021年10月JICA/Samhita調査レポート
https://www.jica.go.jp/Resource/india/english/office/others/c8h0vm0000f9enll-att/report_01.pdf

一方でデメリットがあるとすると、この法律に基づき「対象となる企業」と「最低CSR拠出額」が明確になっているため、「ここで対象となっていない企業はCSRに取り組まなくて良い」、また「定められた額以上はCSR拠出に充てる必要はない」といった考えに至ることもある。ただ、元々CSRに対する意識が低かった中でこの運用が始まったことを考えると、現時点での「全体としてのCSR拠出が増えた」というメリットの方が圧倒的に大きい。

3.インドを変えた日本人教授

そして驚くべきは、インドでこの「2%ルール」が定着する背景には、一人の日本人の存在が大きく影響しているということ。

その人物は早稲田大学の鈴木智英教授。2013年、鈴木教授(当時はオックスフォード大学の教授としてイギリスを拠点に活動)は、「一行開示」と呼ばれる会計ルールをインドの議会で通過させることに成功する。これは、P/Lの費用項目を1行だけ増やして「CSR費用」という欄を設けるもの。これによって、企業のCSR拠出の開示を義務化しようとする試みである。この時点では「開示すること」だけが義務であったが、これはその後「2%ルール(=拠出することの義務化)」へと発展していくことになる。

<出典> 鈴木智英:『一行』で短期利益最大化行動を修正する─インドの社会的責任会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/23/6/23_6_52/_pdf/-char/ja

人口世界1位、GDP世界5位の国、インド。その国のマインドセットをここ10年でCSRの方向へとシフトさせることに成功した日本人教授。そして、そこで組成された数多くのサステナビリティプロジェクトと日本企業のマッチングを図ろうとしているGoziokiの”SALSH”プロジェクト。

インドと日本のCSR連携は、根本的に良い相性を持っていると信じている。

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<過去記事>
【インド新規事業立ち上げ物語】(第23話)概念図
【インド新規事業立ち上げ物語】(第19話)「現場感」と「現場力」
【インド新規事業立ち上げ物語】(第18話)インドは15年前の中国である(?)